日本は少子高齢化。生産牧場や育成牧場含め、日本の競馬業界は人材不足と聞いている。その中で、昨今インド人が競馬場の厩務員としてや育成牧場でのライダー (騎乗員) としてかなり活躍しているようだ。実際に、先日の一時帰国の際に馬の生産地で有名な北海道日高にある友人の生産牧場を訪れた際、門別競馬場に行ってきた。パドックでは馬を引くインド人を沢山見た。
昔イギリス支配下だったインド。競馬場がインド各地にある。馬業界にいると、インド人のグルーム(厩務員)から、兄弟が日本の育成牧場で働いている、日本で働きたいからサポートしてくれないかという話を毎日のように聞く。インド人厩務員やライダーは中東に行くことが多いが、中東での待遇はそれほど良くないようだ。日本の馬関係者からも良いインド人のライダーを紹介してくれないかという話があったり、スリランカの競馬場にも話が来るようで、私がインドの前にスリランカに駐在していたこともあり相談を受ける。スリランカ人ライダーも中東やヨーロッパの競馬場で厩務員やライダーとして活躍している。
日本が求めている海外人材の騎乗レベルは、馬術経験者として何となく予想が出来る。日本の競走馬は気性がかなり荒いようだ。一方で、インドの現状を考えると日本が求める騎乗レベルがある人たちはほんの一握り。北インドだと英語が通じない人もかなり多い。また、そんな一握りの人たちのインドでの需要は高い。むしろ居なくなってしまうと困る。従い、「日本の期待とインドの現実」の観点で話をしたい。
どんなインド人が日本に派遣できるの?
インドの大卒の初任給は月約4万円程度。全従業員の平均給与は月10万円~15万円程度ではないかと推察している。今は売り手市場であるが故、転職する度に30%以上の昇給があるのが当たり前で、時には100%の昇給というのも驚く話ではない。一方で、上記以外のインド労働法上で「ワークマン」と定義されているブルーカラーの「ワーカー」レベルの人達の給与は、月1.5万円~3万円程度というのが実態だ。
その中で馬業界に限った話をすると、残念ながら競馬とは余り縁がないため情報は持ち合わせていないが、インドの乗馬クラブで働いている友人や私のポロ厩舎で働いている人達の給与と業務内容の実例を見てみると、だいたいこんな感じだ
役職 | 業務内容 | 月額給与 | 言語能力 | |
① | グルーム | 厩務員作業 | 1.5-4万円程度 | 英語不可 |
② | トレーナー | 馴致、ブレーキング、調教 | 5-8万円程度 | 人によっては英語可能 |
③ | インストラクター | 顧客指導、調教 | 8-13万円程度 | 英語流暢 |
④ | シニアインストラクター | 顧客指導、インストラクター指導、 海外輸入馬の調教 | 13万円以上 | 英語流暢 |
上記の通り、海外に出稼ぎに行こうというインド人は、①のレベルの人達になる。②のレベルでも海外に行くことはあるが、乗馬クラブやポロチームでかなりの信頼や地位を築いていることから、そこを辞めてわざわざ全く環境の違う地に出稼ぎに行くのは稀なケースと感じている。
インドで起きている現実問題
インド在住の日本人として、インド人が日本で活躍してくれるのは非常に嬉しく思う。私のポロ厩舎にも常時3~4人の厩務員がおり、真面目で働き者でライダーとしても充分な技量があれば、彼らが日本に行って稼いできてハッピーになってくれたら嬉しい。ただ前述の通り、インドでも①と②の人材を見つけるのはなかなか困難なのが現状だ。
今、世界の中で人口が増えているのはインドとアフリカ大陸くらいであろう。そんな人材豊富なインドでも、雇用主側の適用・要求基準を満たしている人材を見つけるのは非常に困難だ。良い人材が海外流出しているため、逆にインドではいいグルームの人材不足という問題が起こっている。私の馬達がいる今の厩舎には3年前からいるが、グルームは辞めては戻ってきての繰り返しもあり、この3年の中で誰1人として続いている人材はいない。来て去った人を数えると、軽く30人は超えると思う。
この問題に立ち向かうために、インドでホースマンシップをやられているインド人の友人が、グルーム用の馬の管理や取り扱い、技術向上のための学校を立ち上げる計画をしていたが、グルームの給与は月1.5~4万円程度、彼らから費用を取って学校を収益化させるのはなかなか厳しい。「学校」という観点ではなく、人材派遣の「エージェント」という観点で考えてみても、海外への人材派遣には”The Emigration Act”に基づくライセンスが必要で、5百万ルピー (約8百万円) の銀行保証、4.2百万ルピー (約6.7百万円) の純資産、50平米以上のオフィス等が必須なようだ。従い、インド政府や競馬場等からの資金援助がない限り、なかなかこれだけの資金を投入して収益化を考えるのは厳しそうだ。何かお互いにWIN-WINになる方法はないものかと日々模索している。
最後まで読んで頂き有難うございました🙏
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